C.W.ニコル
1940年、イギリス南ウェールズに生まれる。
17歳で、高校卒業と同時に恩師に同行してカナダへ渡り、北極地域の野生生物調査を行う。
19歳でイギリスへ戻り、大学へ進学するが北極への思いが断ち切れず、20歳で退学。
以後カナダ政府漁業調査局、環境局の技官として12回に及ぶ北極地域の調査を行う。
この間、1962年に来日、2年半の間日本で空手の修行をする。
1967年から2年間、エチオピア政府の依頼により、国立公園建設のため技術顧問として
エチオピア・シミアン高原で活動。革命によって計画が中断されたためカナダへ戻る。
この間に「ティキシー」「アフリカの屋根から」等の著作を行い、
アメリカ、イギリス、カナダ、メキシコなどで出版される。
1975年沖縄海洋博にカナダ館副館長として、来日。
長編小説の取材にあたる傍ら「冒険家の食卓」を執筆。
1981年からは、長野県黒姫山の麓に住み、「ぼくのワイルドライフ」「北極探検12回」
「C.W.ニコルの青春記」等を出版。自然とのかかわりを大切にしながら執筆活動に専念している。

●あとむ『風を見た少年』上演によせて・・・
 〜夢の中で、出会った少年〜

 この話は、ある晩私自身がみた夢がもとになって書かれました。
とは言っても、すぐに小説になったわけではありませんでした。
なぜなら、その夢はあまりに現実とかけ離れた内容だったので、
自分の心を整理して、文章として書き始めるまでに
4年以上の歳月が必要とされたからです。夢の中で私は一人の少年と出会いました。
その少年こそ『風を見た少年』の主人公“あいつ”だったのです。
 その日から“あいつ”は私の中で私と同居しはじめました。私が顔を洗っているとき、
原稿を書こうとタイプライターに向かっているとき、深夜、一人でウィスキーのグラスを
かたむけているとき、“あいつ”はしばしば私の前に現れ、私に語りかけてきました。
私が直接経験できないような、太古の世界に飛んでいって、その時代の動物たちと暮らし、
人間の醜い争いの歴史をかいま見たり、軍政の重圧に蜂起した民衆に勇気を与え、
ともに戦ったり・・・。そのたびに、“あいつ”は私の中から飛びだして、思うままに
自分の人生を生き抜いていったのです。 
この物語の底には、ケルト人たちの間に伝わる伝説や、
私自身が感じているバイブルのイメージが流れています。
しかも、もちろんこれらは意図して書き加えられたものではなく、
私自身の中にある潜在意識が、“あいつ”の語ってくれた話と
重なり合って現れたにすぎません。
 そんなわけで、いわばこの本は、自然の持つ力や人の心、魂、
そして神というものへの私の考えが、“あいつ”と呼ばれる一人の少年の生き方を通じて、
語られた物語だといえます。
 今、演出家関矢幸雄氏と劇団あとむの方々のお力で日本の少年少女の皆さんに、
この物語を劇というかたちで見ていただけるということを、私は心から嬉しく思います。

(1984年リーフレットより)